木製『疾風』~立川キ106戦闘機~(2025年)

1/48スケール

立川キ106戦闘機 王子航空機製 2号機

昭和20年8月 王子航空機 江別工場(北海道江別市)

◆作品概要◆
【キットメーカー】タミヤ
【スケール】1/48
【機種タイプ】立川キ106戦闘機(ベース:陸軍四式戦闘機「疾風」甲型)
【作品の完成】2025年6月

【外装工作】
・四式戦闘機「疾風」からキ106戦闘機へ相違点の自作パーツにて改修。
・他メーカー(アリイ)からの発動機パーツ移植と点火プラグ線の追加によるディテールアップ。
・プロペラの磁石脱着加工。
・アンテナ支柱・ピトー管の自作金属パーツ置き換え。
・着陸灯のディテールアップ。
・主脚出し表示棒の自作追加。
・主脚ブレーキホース追加。
・空中アンテナ線張り。
【内装工作】
・操縦室内パーツの市販アフター部品(レジン+エッチング製)置き換え。
・各部プラ材・真鍮線にて内部補強。
【塗装全般】
・本体塗装は色味の異なる木目仕上げとシルバー数色の塗り分けにより塗色。
・機体全体の控えめウエザリング。
・国籍章、機体番号、味方識別帯、歩行禁止線を塗装。 

 キ106は、終戦間際の昭和19年(1944年)に戦略物資であるアルミ合金の不足への対策として、当時の新型気鋭の帝国陸軍の四式戦闘機「疾風」(キ84)をベースに立川飛行機が、木製化に設計変更改修して製造した機体です。と言っても部分的には金属を使用し機体大半を木製化した構成となっているのですが、完成試作機は、金属製「疾風」に比べて、17%もの重量増加のため上昇力・速力が低下。訓練用としての使用も考えられたが、強度不足や構造が量産向きでない問題から生産は中止されました。

 本機は、立川飛行機の試作・生産機製造に加え呉羽航空機、王子航空機や高山航空工業においても生産機の製造が計画され、試作型4機、生産型6機の合計10機(立川:4機、王子:3機、呉羽:3機)が完成したとされています。終戦後、日本からアメリカ本国に向けて、接収された2機(試作型2号機?と生産型1号機?)が輸送されたが、アメリカ本国の調査記録では1機(対象機不明)のみとされており、残り1機の所在は不明となっています。
 キ106は、木材の組立て用の接着剤(カゼイン系接着剤)の強度発現に問題を抱えており、試験中に主翼下面外板が剥離・脱落するトラブルも発生したが、技術者達のたゆまぬ努力により改良と工夫を継続することで、この問題に対処・改善しました。因みに王子航空機製の2号機は、江別工場(北海道江別市)から福生飛行場(東京都)まで、自力空輸にて800 km以上の長距離飛行に耐えることを実証しています。

 【四式戦闘機「疾風」から、キ106への主な外観変更・相違点】
➀重心の変化により機首が延長(全長の微延長)
➁主翼基部の前縁ラインの変更(主脚の形状・レイアウト変更が起因)
➂主脚引込み機構の変更に伴う引込み補助ロッド(主脚カバー形状も変更)
➃主翼フラップは蝶型ではないスプリット式に変更
➄主翼内蔵砲の撤去(生産型から適用)
➅垂直尾翼の形状の変更(疾風の試作機タイプ形状に類似)
➆水平尾翼の位置変更(上方へスライド)
➇尾輪カバー(開閉式)が中止されキャンパス製の泥除けカバーへ変更
⑨主輪径の大型化

 キ106の完成したとされる10機は、陸軍に納入または初飛行後で未納入のまま敗戦を迎えた機体数を示す様で、実際に陸軍へ納入された機数や各社工場において製造完成した機数とは一致しない様です。因みに各社工場での生産完成機の状況ですが、立川飛行機では、1号機(昭和19年9月完成)、2号機(昭和20年6月完成)、3号機(昭和20年8月完成)の他、終戦時には4~6号機の組み立てが完了。王子航空機では、1号機(昭和20年4月完成)、2号機(昭和20年6月完成)、及び3号機(昭和20年7月完成)。呉羽航空機では、1号機(昭和20年4月?完成)、終戦時には2号機と3号機が完成。高山航空工業では、1号機(昭和19年10月頃?完成)となっていた模様。

 アメリカ本国に輸送された審査された1機(試作型2号機?or生産型1号機?)についての考察です。完成機の中でどの機体が試作型で生産型なのか、かつ陸軍納入済みの機体であるかは、情報が不足して判断できないのですが、残された実機写真から、主翼内蔵の機銃が装備されていないことが判別できるので、生産型ではないかと思われます。試作型は、四式戦「疾風」と同じく主翼に内蔵機銃が装備されており、試験飛行の結果、機体重量の軽減化を考慮する必要が発生し、生産型からは主翼内蔵の機銃が中止されたとされています。また、恐らく4社における各最初の製造機(1号機)は、試作型をベースに製造されていたと考えると、生産型1号機は、完成時期から推測すると、立川飛行機の2号機、若しくは王子航空機の2号機が該当する機体と考えられます。

 では、立川飛行機の2号機と王子航空機の2号機の内、どちらが先に陸軍に納入されたのか。これも情報がないのでわかりませんが、比較的近年に出版された書籍によると、王子航空機における3機の生産機について、納入(空輸)済が2機、未納入のまま敗戦直後に飛び去ったものが1機であったとのことです。更に王子航空機の2号機は、福生飛行場(現:横田飛行場/東京都)まで自力空輸(8月13日)した納入済み機体であり、アメリカ進駐軍に接収されやすい土地的環境であることから、アメリカ本土へ輸送された機体の可能性が高いのではと想像します。

 と言う訳で独断と偏見を交え本作品は、アメリカ本土への輸送・審査の対象機が、王子航空機の江別工場製2号機であったと仮定し、終戦時期の前後頃と思われる国内で撮影された写真とアメリカ本国へ移送されテスト時前後頃の写真から、実機のイメージや判別できるディテール部分を参考にしつつ、更にキ106に関する書籍の情報を基に独自解釈で考証を重ね製作を行っています。

 キ106は、よく全金属製の機体である四式戦「疾風」の全木製改修機と解説されている様ですが、発動機本体やその支持部材、高強度を要する部材や部位、及び排気管やその付近の外板等は、発熱・発火への対処として金属が使われることになりますので、単純に機体全体、または外装全体が木材に置き代わっているとは考えられません。では、キ106の全貌はいったどの様なものだったのか。これが今回の作品製作のコンセプトで、木製飛行機であることと実機で使用されている各マテリアルの配置を再現することとしています。

 前置きが長くなりましたが、製作ポイントの解説に入ります。本作品の改造ベースキットは、タミヤからリリースされている1/48スケール陸軍四式戦闘機「疾風」甲型です。因みに本キット発売は、1972年2月なので、50年間超のロングセラーであるベテランキットですね。現代の情報と照らし合わせると部分的に不整合箇所がありますが、四式戦「疾風」の特徴をよく捉えた造形となっています。

 キットにおける四式戦「疾風」としての主な不整合部分は、機首カウル長さが長いこと、機体胴体長さが短いこと、垂直尾翼の高さが低いことですが、今回の製作では全ての部位について改修を行っています。また、機首カウル部分は、機体と一体成形パーツとなっていますので、実機とおり分割して別パーツとする改修を行っています。

 尚、一体成形パーツの機首カウル部分と機体胴体と分割するため、排気管モールドは除去し、自作パーツに置き換えています。キットの発動機パーツ形状は、前後列シリンダーが一体モールドで立体感が乏しいので、ディテールアップのため、同時代リリースの旧オオタキ(現アリイ)キット「疾風」から移植しています。

 キットの操縦室内パーツは、時代を感じさせる簡素な状態なので、社外アフターパーツのレジンキットを組み込み近代化ディテール・アップを図っています。

 キットの風防パーツは、厚みがあるので、風防枠部分の内側を斜めに削って枠厚さが薄く見える様に加工を行っています。射爆照準器には、社外アフターパーツを流用しレンズ部の透明化と照準反射板を透明プラ板から切り出して自作して追加しています。

 キ106の主翼フラップ機構は、四式戦「疾風」の蝶型フラップ式と異なり、主翼後縁の下面のみを下げる機構で当時一般的なスプリット式に設計変更されています。

 主脚引込み機構も四式戦「疾風」と異なり、引込み補助ロッド付きに設計変更されています。この変更により、主脚カバー形状も変更され、更に主輪径の大型化も加わり、主翼基部の膨らんだ前縁ラインに変更されています。

 実機の主輪カバー収納機構イメージに向けてディテール・アップ。主脚が主翼に収納されると主輪カバーのヒンジ部分に主輪が当たり、更に押し込むことで連動して主輪カバーが閉じる仕組みを再現。

 プロペラは、発動機パーツ内にネオジム磁石を仕込んで、マグネット式脱着化の加工を行っています。

 キ106の水平尾翼の位置は、四式戦「疾風」のそれより上方へセットされていますので、改修を行っています。また、垂直尾翼の形状は、四式戦「疾風」試作機タイプの形状に類似していますので、同様に改修を行っています。

 パーツ強度的に不安が残るアンテナ支柱とピトー管は、自作金属パーツ置き換えています。また空中アンテナ線を極細の黒色テグス線(0.13mmΦ)にて追加しています。

 翼端灯や尾灯部分は、照明カバー部分を透明パーツにて自作し追加しています。

 主翼前縁部に設置されている着陸灯は、照明器具本体の電灯部分と反射板を自作し設置しています。また、着陸灯カバーガラスは、透明フィルム貼に置き換えて、透明度と透過性を向上させて、リアル感を演出しています。

 主翼上面に突出している主脚位置表示棒は、切り出した洋白線(0.4mmΦ)から自作し、赤色塗装して取り付けています。また、主脚柱にはブレーキ線を自作追加しディテールアップしています。

 木目塗装は、市販のエッチング製マスキングプレートを用いたエアブラシ、スポンジ拭き取り法、並びに色鉛筆による描き込みにて行っています。

 機首カウルや燃料タンク覆い等の高耐食性や強度性、排気管付近の発熱・発火への対処が必要と思われる部分、点検パネルやハッチ部分の高使用頻度による破損防止対策が必要とされる部分、その他強度や納まり上の制約を受ける主脚カバーやフラップ等の部分、これらには金属部品が使われていると解釈し、シルバー塗装としています。また、各動翼部分(補助翼、昇降舵、方向舵)は、羽布張りであることから同材(亜麻布、リネン)の帆色(セールカラー)にて塗装しています。

Fine

2025/01/07 製作記事~1/48 モクセイ疾風・立川キ106(タミヤ改造)~#01
モクセイ疾風・キ106 製作記まとめ(主に工作編) キ106は、終戦間際の昭和19年(1944年)に戦略物資であるアルミ合金の不足への対策として、当時の新型気鋭の帝国陸軍の四式戦闘機「疾風」(キ84)をベースに立川飛行機が、木製化に再設計改...

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