紫色の電光が如く(2021年)

1/48スケール
帝国海軍 局地戦闘機 第201航空隊 53号機(川西鳴尾工場製 製造番号5511)
搭乗者知らず 昭和19年
フィリピン クラークフィールド飛行場

◆作品概要◆
【キットメーカー】アリイ(旧オオタキ)
【スケール】1/48
【機種タイプ】川西 紫電11型甲
【作品の完成】2021年05月

基本はキット素組み。主な追加工作として、コクピット内射撃照準器のディテールアップ。シートベルトの追加。潤滑油中間冷却器のディテールアップ。翼端灯・尾灯のクリアーパーツ化。全面のスジ彫直しと全面リベット打ち直し。自作金属部品(アンテナ支柱、ピトー管、薬品黒染め:主翼機銃)、アンテナ線(極細テグス)の追加。機体は多重グラデーション法(カスケード塗り)とぼかしグラデーション法(ノッキング・ブラシ塗り)により塗色。国籍標識、味方識別帯、機体番号は塗装。

帝国海軍は、昭和15年に策定された計画要求書案に基づき川西航空機(以下、川西)へ十五試水上戦闘機(強風)の研究を発令する。これを受けて川西では、菊原静雄技師を中心とした設計陣を編成し本格的な設計に着手し、昭和17年5月4日に1号機の初飛行に成功する。しかし、前衛的で革新的な技術を盛り込んだこともありトラブル対応や調整に手間取り、最終審査で正式採用(強風11型)をされるも、中島飛行機で零戦を水上機に改修した二式水戦がロールアウトして先行して配備される中、いざ開戦してみると怒涛の快進撃も手伝って、当初想定していた占領地での飛行場整備期間中での敵機邀撃任務の機会も限定され、海軍からの発注数は早くも頭打ちとなる。こうした状況の中、川西社内では先行きの不安を打開すべく、この水上戦闘機「強風」を陸上戦闘機に改修する提案を海軍へ打診。しかし予想に反してこの提案はあっさり快諾されることになる。

これは当時、海軍内では零戦の後継機である十七試艦上戦闘機(烈風)、及び十四試局地戦闘機(雷電)の開発を急ぐも、それぞれのトラブル対応に加えて製造会社の三菱重工社内での零戦の改良対応等で手一杯なことから、中々状況は好転せず焦りだけが募る状況であったため、陸上戦闘機の開発経験の無い川西からの提案に対して、これ幸いと藁にも縋る心情が働いたものと推察されます。

この様な経緯で「仮称一号局地戦闘機」として、局地戦闘機「紫電」は開発(改造?)されることになるが、単純に機体からフロートを取り払って陸上降着装置を備えれば、即座に高速を発揮する局地戦闘機として活用できると川西が目論んだ当初の予想に反し、水上機の設計で配慮した中翼式が仇となり採用した複雑な機構の陸上降着装置(伸縮式主脚柱)のトラブル、主車輪ブレーキの片利きや噛み付きによるトラブル等、陸上戦闘機への実績経験の浅い川西の技術的な問題が浮上し、また、強風に搭載されていた発動機「火星」から、当時実用化の目途がついたため換装された2000馬力級の発動機「誉」に関するトラブルも加わり、前途多難な道のりを歩むことになります。
そんな中でも、川西の技術者たちは、決して諦めず創意工夫を凝らして数々の難題を解消し、試作1号機は昭和17年12月の大晦日に初飛行(正式には翌年正月元旦)を成功させます。

今回の作品に使用したキットは、かつて昭和40年代頃にオオタキ(大滝製作所:1980年代にプラモ業界から撤退)から発売された第二次世界大戦機の1/48スケール・シリーズ物の一つです。私も少年時代にこのシリーズの零戦、二式単戦「鍾馗」等を組立てた記憶が残っていますが、子供心にも「紫電」のスタイルに他の優美な日本軍戦闘機と違って違和感を感じたせいか、キットを手に取る事はなかったと記憶しています。

現在はアリイが金型を買取り当時のままの状態で発売されていますが、金型の精度が良く各パーツの合いは概ね良好で全体フォルムもイメージ良くまとまっています。しかし、当時の実機に関する情報不足から機体各部の細部形状やパネルライン等について考証は正確ではありません。当時としては珍しい凹モールドの全面パネルラインと全面リベットは、現在のスケールキットの主流となっていることから先見の明があったんだと感心してしまいますね。

ご存知の通り本機「紫電11型」は、この後に改良版として改修される「紫電改/紫電21型」の前身であります。これに倣って、本作品は並行製作している「紫電改」の仕上げ塗装テストのため先行製作してみましたので、いつものディテールアップ工作はオミットし、どうしても気になる潤滑油中間冷却器(カウリング下部の突起)の自作置き換えとパーツ継ぎ目処理の作業が困難なカウルフラップと排気管廻りの工作、アンテナ支柱と機銃銃身の金属化のみに限定しています。

本作品の塗色について、上面の濃緑色は基本迷彩を多重グラデーション法(カスケード塗り)にて塗装し、油彩系塗料にて青味フィルタリンクを掛けて彩度調整を行っています。下面のシルバー色部分は、上面塗装のテクスチャーとの統一化を図るためシルバー系塗料を用いた、ぼかしグラデーション法(ノッキング・ブラシ塗り)にて塗装し、日本軍機特有の光の反射に伴う凹凸感あるジュラルミン素地面を表現しています。尚、本作品では南方特有の強い日差しでの上面塗装劣化を表現すべく、濃淡グラデーションを強めに掛けています。

機体上面の濃緑色の退色と砂ホコリの汚れ等は油彩系塗料にて、また排気汚れをタミヤ・ウエザリングマスターやパステルを用いて表現しています。

落下式増槽は、大戦末期に多用された木製タンクなので、明灰色にて塗装しています。また同様に両主翼下のガンポッドについても、当時の実機写真(モノクロ)を見ると明らかに機体下面のジュラルミン面とトーンが異なるため、塗装仕上げとされていると判断し明灰色にて塗装しています。

キャノピーはキットのパーツを使用していますが、風防と天蓋の一体化した状態のもので、表面の黄ばみがあったのと厚みがあるため操縦席内が歪んで見えます。本作品ではキャノピーパーツの内外をスポンジヤスリにて表面を整えた後、透明度回復作業を行っています。

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