海軍新選組「菅野一番」(2021年)

1/48スケール

帝国海軍 第343航空隊(剣部隊)戦闘第301飛行隊

飛行隊長 菅野 直大尉 搭乗機

昭和20年4月 松山基地

◆作品概要◆
【キットメーカー】ハセガワ
【スケール】1/48
【機種タイプ】川西 紫電21型(紫電改/前期型)
【作品の完成】2021年06月

操縦室内のディテールアップ(計器盤のエッチングパーツ化、射爆照準器の追加工作、シートベルト追加)。エンジン配線の自作追加。カウルフラップ・ロッドの自作追加。排気管の開口加工。全面のスジ彫直しと全面◎リベット追加打ち。主脚ブレーキホースの追加。主脚出し表示棒の自作追加。自動空戦フラップ・ロッドの追加。増槽タンクの脱着化への追加工作。自作金属部品(アンテナ支柱、ピトー管、薬品黒染め:主翼機銃)、アンテナ線(極細テグス)の追加。機体は多重グラデーション法(カスケード塗り)とぼかしグラデーション法(ノッキング・ブラシ塗り)により塗色。国籍標識、隊長機帯、味方識別帯、機体番号は塗装。

帝国海軍機において零戦に次ぐ知名度・人気を誇る「紫電改」について、もはや多くを語る必要は無いと思いますが、やはり少しだけ語ってみたいと思います。

紫電改の正式名称は紫電21型と称し、母体機であり先に局地戦闘機として正式採用された「紫電11型」の改良機となります。因みに「21型」の十位の数字「2」は機体の改修数を示し、一位の数字「1」は発動機の換装数を示しますので、機体改修は第1回目なので原型機の「1」に1回目を加えて「2」、発動機の換装は無く紫電と同じ2000馬力級の中島製「誉」を引き続き搭載していますので「1」のままとなっています。

紫電改に搭載されている小型で高出力の発動機「誉」は、高性能スペックの持ちながら戦局の悪化に伴う部品の代替え資材の採用や燃料の品質低下の影響を受けて額面通りの性能を維持出来ず、これらに起因する故障・トラブルで実働機率の低迷に悩まされることになりました。

空戦における紫電改の強さの秘密は、新機軸の設計である「自動空戦フラップ」と「層流翼」、それに両主翼に各2挺の計4挺設置された20mm機銃にあります。前者により高速機でありながら空戦運動性に優れ、後者により強力な攻撃力を合わせ持つ、正に当時の海軍における最強の戦闘機でした。

実戦配備された紫電改は一般に前期型と後期型(生産機101〜200号機)に分けられますが、本作品は前期型の「紫電21型」です。因みに後期型は前期型の爆装能力を60kg爆弾4発または250kg爆弾2発に向上させ、垂直安定板前縁を削り面積を13%減積した型で「紫電21型甲」と称します。この後期型では操縦性と安定性のバランスが改善され性能向上が見られたとのこと。

紫電改が有名になった要因は、やはり激戦を戦い抜いて来た精鋭パイロット達が集められた第343海軍航空隊の通称”剣部隊”に集中配備されたことでしょう。本作品は、その”剣部隊”を構成する戦闘第301飛行隊の隊長で撃墜王(48機撃墜)でもある菅野 直(かんの なおし)大尉の搭乗機です。

この第343海軍航空隊の通称”剣部隊”は、二代目の第343海軍航空隊で昭和19年12月25日付けで開隊されました。特筆すべきはこの部隊における空戦の戦術で、当時の日本では珍しいドイツ空軍やアメリカ軍で実用化され始めた編隊による空戦に着目し、その徹底化を図り二機一組の編隊空戦を熟練パイロットが主体となって実践していたことです。この編隊空戦術は、ドイツ空軍では「ロッテ戦術」といい、一小隊を四機編成とし乱戦になって編隊を維持できなくなっても最低二機一組で戦う体制を維持することで、攻撃時も防御時も二機がそれぞれの死角をカバーする攻防一体化を狙った高難易度の戦法です。

この”剣部隊”の初陣は、昭和20年3月19日の米機動部隊の来襲による九州沖航空戦での迎撃戦闘における「松山上空戦」となりました。この時の戦闘301隊長の菅野大尉の搭乗機はA-24号機であったとされており、空戦中に被弾・炎上したため搭乗機はやむなく空中放棄。パイロットの菅野大尉はパラシュートで脱出するも頭部火傷で負傷する。因みに菅野機の機体ストライプの帯模様は、部隊内で実戦経験の浅いパイロットが多い中、自身が敵機をひきつけるために書き入れたもので、その気概に他の戦闘機飛行隊長もそれにならったとのこと。尚、機体ストライプの帯色について、一般に黄色と言われるが白黒写真しか残されていないため、当時の方の証言で白色説もある。(下右写真は、現代の技術で合成着色加工されたもの)

第343海軍航空隊 戦闘第301飛行隊 飛行隊長 菅野 直大尉機 昭和20年4月 松山基地
※Webサイト:Pinterestより写真引用

本作品のA-15号機は、昭和20年4月に行われたアメリカ軍の沖縄上陸を迎撃する菊水作戦に参加するため九州の鹿屋基地へ移動する際に菅野大尉が搭乗されていたとされ、部隊内における2番目の搭乗機体と推定されます。

本作品のキットは、1/48で唯一発売されているもので、ヴァリエーション版として後期型の紫電21型甲もあり、現時点での決定版となっています。しかし、金型差し替えによるヴァリエーション展開のため、差し替えモールド部分廻りで金型段差等があり、製作時はその是正処理を行う必要があります。

操縦室の機体側面にある搭乗者手・足掛けを真鍮線にて自作し追加。また、機体下部の足掛けはキットのパーツを真鍮線で補強しています。

計器盤のディテールアップは、別売りエッチングパーツ(エデュアルド社製)を使用しています。操縦室の風防と天蓋は、縁断面部を削って厚みを薄く見せる加工を行っています。

キットの操縦席には、背板部分のシートベルトが予めモールドされていますが立体感に乏しく、また座面部分のシートベルトが省略(復元機を参考にしたものと推察)されているので、背板シートベルトのモールドを削り取り、別売りアフターパーツを追加しています。また、同様に一体モールド化している操縦席後部の座席高さ調整綱も削り取り、真鍮線にて置換えてています。

前期型は、零戦と同じく旧式の九八式の射爆照準器を装備しています。キットのパーツから分厚いフィルターガラスと反射透明ガラス部分をカットし、エッチングパーツ付属の透明フィルムに置き換えます。また、予備照門(ファインモールド社製/エッチングパーツ)、及び照準器レンズをクリアーパーツにて追加しました。因みにフィルターガラス部分には、スモーククリアー色にて着色してあります。

操縦室の第2風防の内側上部のある開閉フックは、真鍮線を加工して自作しています。また、操縦席のヘッドレスト部に相当するロールバー(転覆時保護支柱)は戦争末期の資材不足から、紫電改では木製となっていますので、塗装にて杢目表現し雰囲気を醸し出しています。

機体側面の防火壁部のスリット、及びカウルフラップ開閉ロッドのスリットについては、実機通りに開口加工しています。主翼の翼端灯、及び編隊灯はクリアーパーツ化とし、翼端灯の内部には電球表現を付加しています。

キットのカウルフラップには厚みが大きいので、フラップ内側を削り込んでいます。更に実機写真を参考に、カウルフラップ裏側にある補強プレートの再現、カウルフラップ開閉ロッドを基部と共に自作追加しています。また、キットでは省略されている各排気管の排気孔を開けています。

自動空戦フラップ「下げ状態」にて再現。キットでは両端部のスライド・ガイド部のみ再現されており、押出しロッドは省略されていますので、補強も兼ねてディテールアップでこの押出しロッドを洋白線にて自作追加し、下げ角度30度で固定しています。

アンテナ支柱は、補強を兼ねて真鍮線の叩き延ばし・ヤスリで形を整えた自作にて置換えています。また、支柱基部はプラ棒にて削り出して取付けています。機体パーツの尾灯部分を切り取り、クリアーパーツに置き換えて内部の電球表現も付加しています。

主翼前縁の20mm機銃は、真鍮パイプにて置換え、先端部をラッパ加工しています。また、ピトー管も同様に真鍮パイプに置換えています。主脚部のディテールアップは、主脚柱のオレオ部分をアルミパイプに置き換え、ブレーキホース結束帯の追加、及び内部に真鍮線を仕込んで強度アップ化。主脚カバーは厚みを薄く削りシャープ化。主脚柱引き込みロッドはスプリング部分を真鍮線とスプリングの組み合わせに置き換えています。キットではタイヤのトレッドモールド(溝)が再現されていませんので、スジボリにて追加しています。

プロペラ減速室カバーの廻りに配置されている、発動機「誉」の点火プラグ線をなまし銅線にて追加しています。また、両主翼の胴体付根の前縁部にある操縦室への空気取入れ孔を開口。増槽の燃料注入口付近には燃料こぼれの跡を再現してみました。

今回の塗装仕上げについて、実機の配備間もない時期を考慮して機体上面の迷彩色は、グラデーション明度差を極力低減し、かつ墨入れ色をグリーングレーで行うことで真新しさを表現しつつ、実機での製造における省略工程に起因し、かつ激しい訓練での使用状況から発生した機体塗装の傷みを再現しています。下面塗装について、実機ではジュラルミン素地仕上げなので、当ウェブサイトでの塗法「ノッキング・ブラシ塗り」によるシルバー仕上げとし表面の微細な「うねり」を表現しています。

Fine

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