2024/04/14 日本軍機迷彩塗装考その4~零戦のカウリング色~

新着情報

カウリング色は、"黒色"ではないの?

 特に零式艦上戦闘機(ゼロ戦)のキットを製作する際、機種部分のエンジンを覆う円筒形の外板、いわゆるカウリング(発動機整流環)の指定色は、模型用塗料のMr.カラーの色番では、No.33(つや消し黒)や、No.125(カウリング色)となっていることが多く、キットのメーカーや発売時期によってまちまちとなっています。この2色は、あえて色名を分けてあることから同色ではなく、No.125(カウリング色)は、No.33(つや消し黒)に対して、やや青味の有る黒系色です。では、同じゼロ戦なのにどうして微妙に色の違う指定があるのか、その理由について検証してみたいと思います。

青味の有る黒系色(カウリング色)は、"三菱工場生産"のゼロ戦の再現色?

 零式艦上戦闘機は、三菱重工にて設計・生産された航空機です。しかし、当時国内の多くのメーカー工場では欧米の様な大量生産が可能な設備の整備がまだ不十分で、三菱重工もその例に漏れず軍からの要求生産数を満足出来る状態ではありませんでした。このため、同大手メーカーである中島飛行機の工場でも並行してゼロ戦を生産することになり、三菱製ゼロ戦と中島製ゼロ戦が混在するカタチとなって前線へ配備されることになりました。

 両社が共同生産したゼロ戦の形式は、21型と52型がそのほとんどで、11型、32型や22型等の少数生産タイプは、全て三菱重工にて製造されました。また、21型の初期生産機は、中島飛行機が生産着手前だったため三菱製で、開戦前に配備された機体の全てが該当します。しかし、同じ機体タイプでも、製造する工場、加えてメーカーが異なると、製造工程や工作方法についても異なって来るのが世界共通の常で、それは塗装に使う塗料についても同様でした。特にカウリング部分に使う黒色塗料については、両社の違いが出た一例となっています。

 実機のゼロ戦におけるカウリング色である黒色は、日本海軍規定色におけるQ1(黒色)が指定色で、混色の無い黒色となっていますが、この「カウリング色」の色味違いについて、2022年1月に大日本絵画より出版された資料本「日本海軍機の塗装・ソコハ何色?」で触れられていますので紹介します。文中に「(中略)・・・中島製の21型で外側の色は三菱製のように青みがかかってない純粋な黒です。・・・(以下省略)」とあり、現物でも確認されていることが伺えます。因みに三菱製のカウリング用塗料の黒色は、短期間で白っぽく退色した様に変色し易いことが指摘されたため、対変色の改善が施されたとのことです。

カウリング用塗料に使用された黒色塗料の"顔料"について

 このゼロ戦のカウリング色に使われた塗料で、青い反射が強く出る現象の主因は、黒色顔料となったカーボンブラック(煤)の原料が影響していると考えます。例えば、当時でも国内で生産されていて、かつ、比較的手に入りやすい黒色顔料が使用された製品の一つに「墨」が挙げられます。この「墨」の原料に使われる煤には、油煙・松煙・改良煤煙の3種類があり、その煤から作られる墨をそれぞれ「油煙墨」「松煙墨」「改良煤煙墨」と呼ばれています。因みに「油煙」とは、菜種油などの植物油を燃やして生成する煤、「松煙」とは、松の枝や皮を燃やして生成する煤、そして、「改良煤煙」とは、石油などの鉱物油などを燃やして生成する煤とのことです。

Mr.カラーNo.125(カウリング色)を使用した零銭21型。※艶あり仕上げ

 「油煙墨」の特徴は、濃墨では黒色ですが、淡墨では赤味を帯びた茶系となります。次に「松煙墨」の特徴ですが、古くなるほど黒系から青系に変化していくといわれています。最後に現代では比較的実用墨や普及品に多く使用される「改良煤煙墨」の特徴は、松煙墨や油煙墨と比較すると単純に“黒い”とのことです。上記3つの原料の中で、戦前・戦中における戦略物資(アルミ材や燃料など)に影響を与えない原料について考えると、可能性が高いものは、木材の「松」かと考えます。想像の域を出ないことを前置きし、零戦のカウル色塗料の顔料の原料に「松煙」、又は類似原料を使っていたのであれば、”青味”のある黒色の説明は出来るかと考えます。
 身近な例として、模型用塗料のMr.カラー色番、No.2(ブラック)とNo.58(黄橙色)を混色すると青味要素が無いのに緑系色になります。

Mr.カラーNo.125(カウリング色)を使用した零銭22型甲。※艶消し仕上げ

 最後に独断・推測も交えて、ゼロ戦のカウリング色に使用された「黒色」について、下記に見解を纏めてみました。
【カウリング色:黒色の見解】
①「カウリング色」はあくまで近年での通称であり、正しくは日本海軍規定色におけるQ1(黒色)。
②ゼロ戦は、三菱重工と中島飛行機の両社で生産され、機体塗装に使用した塗料も異なるメーカー。
③三菱重工で使用した「カウリング色」塗料は、初期において変色し易く青味が強く見えた。
④「カウリング色」塗料の青味の主因は、顔料である煤(カーボンブラック)の原料が影響。

Fine

コメント

タイトルとURLをコピーしました